相続発生後、一度は相続人間で遺産分割協議がまとまって不動産の名義変更等を済ませたものの、後になって遺産分割協議の内容を変更したいと思うことがあるかもしれません。
こういった場合に遺産分割協議をやり直すことはできるのでしょうか?
結論としては、「一定の条件のもとやり直すことはできるが、思わぬ課税リスクが潜んでいるので注意が必要」ということになります。
1、遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、亡くなった方の財産の分け方について、誰がどの財産をどのぐらい相続するのかを相続人全員で話し合う手続きのことをいいます。
では、この遺産分割協議はいつまでに終わらせればいいのでしょうか。民法上は特に期限についての定めがないため、いつでもいいとされています。
ただし、相続税の申告期限が10ヶ月となっており、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減といった特例を適用するためには遺産分割が確定している必要があることから、実務上は申告期限内に遺産分割を確定させるケースが多いです。
2、遺産分割協議をやり直せる場合
一度成立した遺産分割協議であっても、次のような場合にはやり直すことができます。
① 解除
相続人全員が合意している場合
② 取り消し
詐欺・脅迫・錯誤などがあった場合
③ 無効
相続人全員が遺産分割協議に参加していなかった場合や、判断能力のない相続人が単独で参加していた場合
※この場合は、やり直せるというよりは、やり直さなければなりません。
3、遺産分割協議のやり直しに伴うデメリット
上記のように、遺産分割協議のやり直しは可能ではあるのですが、やり直すことで相続人が何らかの不利益を被ることはないのでしょうか。
たとえば、冒頭のケースのように、いったんは遺産分割協議がまとまったためその通りに不動産の相続登記を行ったものの、後になって遺産分割協議のやり直しを行い、当初とは別の相続人が無償で取得することになり登記もやり直した場合で考えてみましょう。
相続税法基本通達(19の2-8)では、「当初の分割により共同相続人または包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、分割により取得したものとはならない」と定め、相続税法上は原則として遺産分割協議のやり直しは贈与に該当すると解されています(仮に無償ではなく対価の支払いがある場合は、譲渡所得となり所得税の対象となります)。
つまり、当初の分割により相続税が課された(被相続人の遺産が基礎控除超あると仮定)後、さらに追加で贈与税が課されてしまうということになります。
なお、贈与によって不動産を取得した場合、通常は贈与税に加えて不動産取得税や登録免許税といった税金も追加で課税されます。相続による不動産の取得の場合、不動産取得税は非課税のためかからないのに対し、贈与による取得の場合は税率が3%~4%となっています。また、登録免許税の税率は、相続の場合が0.4%となっているのに対し、贈与の場合は2%となっていますので、金額の大きい不動産であれば負担額も大きくなることが多いでしょう。
ただし、上記2.①のような相続人全員が合意したうえでのやり直し(合意解除)については、相続による取得に該当することになると判断した最高裁判決(昭和62年1月22日)が存在することから、不動産取得税も登録免許税も課税されません。
ややこしいのですが、あくまでも相続税法においては、遺産分割協議のやり直しを相続による取得ではなく贈与と考えているということになります。
4、最後に
以上のように、遺産分割協議のやり直しには贈与税という思わぬ課税リスクが潜んでいるので、やり直しを検討する際には慎重な判断が必要です。一方で、贈与税課税について争われた裁判ではないものの、合意解除による遺産分割協議のやり直しに伴う取得を相続による取得である、と判断した上記最高裁判決が存在するほか、一定の場合には相続による取得と解する余地もあるといった趣旨の判断をした地裁判決も存在しているため、事案の内容によっては贈与にならないケースも考えられるところです。
判断に迷う場合には事前に専門家へご相談されることをお勧めいたします。